避けるものがある人生は不幸 掃除は物ごとと向き合うための実践

株式会社ブラザーズ 代表取締役

北浦 明雄

「凡事徹底」を謳い、地域の掃除を毎日欠かさないハンバーガーショップ「ブラザーズ」。掃除だけでなく、人のために自分ができることを実践することで得られる本当の幸せとは何か?北浦社長に伺いました。

スリッパに書かれた「凡事徹底」の意味

北浦 明雄

北浦 明雄(きたうら あきお)

22歳のときシドニーに渡り、現地のハンバーガー店にて修行をし、このテイストと雰囲気を日本でも広めたいと思い立ち、25歳で老舗の和食の店や和菓子屋が立ち並ぶ、江戸情緒溢れる人形町で開業。愛と勇気あるグルメバーガー業界のリーディングカンパニーを目標に掲げている。

日下部まずお聞きしたいのは、スリッパなんですが・・・(笑)
「凡事徹底」と印刷されていますが、オリジナルのスリッパを作られているんですね。「凡事徹底」というのはどのような意味なのでしょうか?

北浦凡事というのは平凡なことという意味で、徹底とは言葉のとおり徹底するという意味です。朝起きて布団をあげたり、掃除をしたり、洗い物をするといった日常でやっていることのほとんどが凡事になります。凡事徹底というのは、そういう凡事を誰にも負けないくらい徹底してやるということなんです。それが直結していろんなことにかかわってくるんですよね。
うちの会社は今年で17年目になるのですが、独立希望者が多く、これまで20名が自分の店をオープンさせています。
それぞれが経営者になったときに、どんな気持ちで経営をしていくのかを考えると、やはり継続していくことが大事になりますよね。
継続って、朝オープン前に掃除して仕込みして、最後は締め作業して、また次の日・・・という感じで、結局毎日同じことの繰り返しなんですよね。
これをずっと続けていると迷いが生じてきて、こんなことやっていていいんだろうかと考えたり・・・特にお客さんが入らないときは悩みますよね。そういうときに日常の作業をとにかく徹底するんです。
一つ一つの作業だったり、一人一人のお客さんに誠心誠意対応したりを積み重ねていけば、必ず実になっていくという想いが込められた言葉です。それをスリッパに印刷して各店舗に配り、忘れないようにしてもらおうと。

日下部北浦社長がこの言葉と出会ったきっかけはなんですか?

北浦この言葉は50~60年の間、掃除をずっと実践しているイエローハットの鍵山さんという方が作った言葉です。毎日外を掃除するって結構大変なことで、それを毎日実践することで人の輪が広がったり、ビジネスが拡張したりということが起こったそうなんです。

日下部北浦さんの徹底した掃除は東京都中央区から表彰されるくらい、本当に素晴らしいことですよね。徹底したことで起こったエピソードなどあれば教えてください。

北浦店内だけでなく外も掃除し始めたきっかけは、自分が現場から離れたことがきっかけです。売上を達成し、自分が現場から離れて人に任せる目標まで達成してしまうと、自分は経営者として計画を立てたり、考えることが中心になってしまったのですが、気持ちが内々に入ってしまい、結局良い考えが浮かばないんですね。
そこでふと、デスク周りを掃除して気持ちを外向させたら、掃除が終わったときに、“ああ、こうすればいいんだ”って答えが出てきて・・・。迷いがあるときは掃除をすることで、思考がプラスに繋がっていったんです。
その後、身の回りの掃除だけでは物足りなくなってきて、今度は地域を掃除しようと考えました。
とにかく汚れていそうな場所をと思ったので、最初に選んだのは新宿の歌舞伎町でした。週に4~5回、朝5:30くらいに行き、1時間くらい掃除して帰ってくるのですが、やっているうちに掃除も極めてみたいと思うようになりました。そんなときに「掃除の会」という会に顔を出すようになり、そこでイエローハットの鍵山さんにお会いしたんです。
経営者は上に立って指示を出さなければならないので、自分が上なんだと勘違いしてしまうんです。僕も実は傲慢な時期があって、毎日イライラして、“なんでできないの?”と責めてしまったり・・・。それが掃除をするようになって自分が謙虚になれたんです。もちろん今でも叱るときは叱りますが、回数も減り、心が穏やかになって、謙虚になることができました。
従業員として雇った独立希望者のなかには、“自分は技術や知識を学びにきていて、掃除をするために来たんじゃない”という感じで辞めていく人もいます。でもそれを習慣化できている人は独立したときにうまくいく人が多いですね。
表面的なことを学ぶのではなく、土台や基本を学ぶという意味では、今は良い従業員に恵まれています。朝礼もそうですが、ダメな人は脱落していきますから。

北浦 明雄

日下部いい意味で振るいがかかっているんですね。

北浦何かに取り組んでいるときの人間の意識って段階があって、高く昇ろうとする意識があると、掃除でも最初はやる気満々で始めるのですが、しばらく続けていくと、“俺なんでこんなことしてるのかな?”と絶望感みたいな“感情が沸いてくるんです。でもそれは次の段階に昇るための大切な意識で、必ず誰でも通る道なんです。掃除を毎日続けることで、意識の向上ができると思いますよ。

お金だけ儲けても何もない虚しさ・・・
「HELP」を広げることで本当の幸せを感じた

日下部淑美

日下部 淑美(くさかべ よしみ)

BODY INVESTMENT代表
フードエリート / 真実の予防医学食研究家 / 管理栄養士

プロフィール

日下部従業員の中には、朝早いとか、交代でいいのでは?等の意見はありませんでしか?

北浦お金持ちになるとか仕事でこうなりたいとか、家族がいれば今度は家族が元気であってほしいなど、自分のことは誰でも考えることができる。そして会社を経営していれば、会社の利益を上げて従業員やその家族を守るという責任が生まれるので、グループ単位で物事を考えるようになります。ここまではたいてい人が考えられます。
次にこれを地域というグループにまで広げてみたり、更にもっと踏み込んで人類というグループまで広げてみる。
自分は豊かになっているけれど、世界に目を向けると難民や食料に困っている人はたくさんいます。そこに同じ人類として自分に責任はないのか?家族と同じように自分は何かできないか?と考えるんです。
1日3食を食べることができるなら、食べられない人に自分が何をできるかを考える。例えば寄付だったり里親だったり、とにかくできることからやり始めると、真の豊かさを追究する方向に向かっていくんですね。
これまで17年商売していますが、最初の3年は苦しくて・・・。

日下部そうなんですか?

北浦お金に困らないということは、ある程度達成された状態なんです。好きなものを買えて旅行ができて・・・でもその先のことを考えると、何もないような虚しさがあるんです。仕事もさほどやる気にならなくなるので、だんだん堕落したり・・・。
それじゃ豊かさって何だろう?と考えたら、僕の人生の哲学は「HELP(助ける)」だということに気づいたんです。
自分ができるHELPの大きさを広げていくと、何を手に入れたかではなく、自分がやったことが蓄積していく感覚が得られる。なんと表現してよいかわかりませんが、それが自信になりますし、友人の輪も更に広がるんです。そういうことを味わえることのほうが本当の贅沢だと思います。

日下部自分の価値や存在意義ができますね。人間は自分のためだけに生きるということはできないそうです。
認知症になる方の多くは、自分の役割がない、自分の存在価値がないと思ってしまった方だったりします。考える力もなくなるし、人に依存して生きてしまったり・・・。でも、そこに面倒を見る必要がある子供がいたりすると、自分で自分の食事もできなかった認知症のおばあさんが、子供に食べさせてあげられるようになるんです。
自分が食べさせないとこの子は死んでしまう・・・という責任感が人を動かすんですね。

北浦逆転するんですよね。自分が助けられている側でずっと助けられてしまうと、実はすごく不幸なんです。全部与えられている人って、他人からみたら幸せそうに見えるかもしれないけど、実は心の中はボロボロなんですよ。

日下部更に与えてもらわないと生きていけない状況になりますよね。

日下部淑美

北浦それが与える立場になると生きる力が湧いてきて、自分がやらないといけないという感覚になって人が変わっていきます。誰かに何かを与えることは、生きていく上で絶対必要ですね。

日下部そういう考えは従業員にも伝わると思いますが、社員教育は北浦社長ご自身がやられているのですか?

北浦自分は店長にしか教育をしていません。お店はトップ次第で変わりますので、店長の意識をどう変えていくかだと思っています。月に1回の掃除は社員全員集まるので、そこでの空気感はみますが、あとは店長からすべて指導してもらっています。

自分と向き合い恐れを克服していけば、おのずと世界は広がっていく

ハンバーガー

日下部様々な業態を展開している飲食店経営者の方もいらっしゃいますが、北浦社長は一つのものを貫いていますよね。

北浦いろいろな業態をするというのは創造力や進化させることも必要ですし、本当に素晴らしいことだと思います。自分もサンドイッチ屋をやってみようかと考えていた時期もありましたが、一つのことをやり通すほうが自分には合っていると感じて、ブラザーズに拘ってみようと思ったんです。
開業から17年目に入ってようやく周りに認知されてきました。新しいことを始めるとまたゼロからですので、この17年やっているこの商売、この店、ブラザーズに注力していこうと思っています。

日下部今後の展開は何かお考えなのでしょうか?

北浦ブラザーズの看板を任せてもいいと思える人が現れれば、フランチャイズもやってみたいですね。フランチャイズの協会を訪れて話を聞いたりしましたが、やっていただく方とは信頼関係をしっかりと築きたいので、最初はうちで修行してもらいたいです。
カレーのCoCo壱番屋さんは、基本的に夫婦でなければ開業できないというルールなんです。夫婦で取り組むのであればそれは真剣だと思いますので、そういうのもいいと思いますね。

日下部北浦さんには掃除ができないと信用できませんね(笑)

北浦そうかもしれませんね(笑)。実際にうちから独立した人が掃除を徹底できているかというと、残念ながら出来ていない人も多い。掃除の大切さを理解出来ず、うちにいる間はとりあえずやっていたのかもしれないですね。

日下部飲食店を経営している私の主人も、一緒に食事に行くとそのお店がきちんと掃除をしているかどうかチェックしていますよ(笑)

北浦ご主人は掃除をするのですか?

日下部やってくれますね。日頃の掃除とかはしませんが、排水口とか人が嫌がるところを掃除してくれます。

店舗外観

北浦やはり掃除ができる人なんですね。
表だけ綺麗にしていても、トイレや裏口が汚れていると嘘っぽい感じがして。掃除って最高の“おもてなし”なんだと感じます。本当に大切な人が家に来るとなれば、トイレも掃除しますよね。そういう思いと行動が一致していない人はすぐに分かります。基本中の基本をおろそかにしていることってたくさんあるんですよね。
スリッパを揃えたり、整理整頓することは、自分自身を大切にすることにも繋がります。次にどこかに行こうと思ったときに、スリッパが揃っていればさっと行けますよね。でもスリッパが乱れていると心も乱れるんです。
スリッパを揃えるだけのことでも徹底するのは大変ですが、心が乱れる原因は可能な限り無くしていく。そういうことを店長クラスには指導しています。

日下部社員の休憩場所などは綺麗なんですか?

北浦綺麗ですよ。飲食業は人をもてなす仕事なので、自分は後回しになってしまう。自分も店は綺麗でも自宅は片付けができてなくて、物で溢れている時期がありました。
でも、そういうところで休んでいても、休んでいる気にならず、疲れが溜まってくるんですよね。気が澱んでくるというか・・・。ですので自宅では週に1度掃除をしています。トイレは修行のために息子にやらせて、僕はお風呂場担当です。毎週1時間かけてお風呂の排水口から洗面台まで全部綺麗にしていますし、2週に1回は捨てるものはないかチェックして、不要なものを捨てています。

日下部排水口って表面の髪の毛とかはとっても、開けてみると大変なことになっているじゃないですか。やはり好んで開けたくないですよね。(笑)

北浦この世界は物に囲まれていて、見ても構わないものや、見たくない、触れたくないものがあります。実はそれは物ごとと向き合う力の実践であり、避けるものがあればあるほど人生は不幸なんです。
物に触れられないということは、コントロールされているのと同じでなので、自分は進んで触れるようにしています。すると触れたくない物がなくなっていき、怖いものもなくなります。物ごとをコントロールする力を持ち、自分で環境を作り出し、空間もコントロールできるようになります。触れたくないものがあると、空間を支配できませんが、それが無くなれば空間さえも自分の支配下にコントロールできるんです。

日下部なるほど~奥が深いですね。生きていると、避けたいことや嫌なことがありますが、そいうことも今のお話に通じますね。

北浦人生やビジネスで、行動に移せないとき、それは全て“恐れ”なんです。怖いんです。経営者はみんな勇気があると思われがちですが、結構怖がりな人が多い。僕も怖がりです。でも、怖がりだからこそ、ちゃんと向き合おうとする。自分で向き合っていないことに気付いてちゃんと向き合うと、本当に素晴らしい気分になれます。恐れを克服していくと世界が広がるんです。
お金も怖いんですよね。僕は25歳で2000万円を借金して店を立ち上げましたが、やはり怖さがありました。でもそれを克服すると、じゃあ3000万円は大丈夫かな?5000万はいけるかな?1億でも大丈夫かな?という具合に意識が変わり、段階も上がっていくんです。段階ごとに直面する恐怖を克服できるようになると、支配できる金額も大きくなるんですよ。

日下部よく借金している方が、仕事がやる気になるっていいますよね。

北浦 明雄

北浦借金できることは信用なんです。返さなければならないので、お尻に火がつきますし(笑)お金が溜まっていくだけだでは、何も得るものがない。また、可能な範囲で寄付をすることもあります。

日下部素晴らしいですね。

北浦寄付は目に見えない徳を積んでいるような感じで、自分も助けられているという実感があります。小さくても良いので、人のために何か自分の存在意義を高めていくことが大事なんだと思います。

掃除は今現時点に集中するためのトレーニング

日下部これからの展望は?

北浦個人的には社会貢献です(笑)。今年、ブラザーズが日本橋の某百貨店に入ることになったのですが、店舗を拡大するというよりは、地域活性に一役担えるのなら出店しようというスタンスです。それよりはスタッフの心の豊かさを高めたいというのと、独立へのサポートができるように指導していればと思っています。

日下部何か健康に気をつけていますか?

北浦食事は1日2食。あとは、サウナですね。高温のフィンランドサウナでデトックスをして、ビタミンをたっぷり摂る。あとは軽いスクワットをしたり、パーソナルトレーニングも受けたりしています。掃除も運動になりますしね。(笑)
海外の経営者は、朝の出社前にジョギングをして心を整えますが、僕の場合はその運動が掃除なんです。

日下部心が無になれるんでしょうね。

北浦掃除の会の方も、無になることが大事だと言っていました。自分的には無になるというより、今ここにいるという表現がしっくりきますね。掃除は今現時点に集中するためのトレーニングになるので、過去に引っ張られることがなくなるんです。

日下部掃除によって物事への向き合い方が変わり、何があっても対応できる心が備わっていくので、ストレスを感じにくくなるんでしょうか?

北浦掃除をしていると、今日はやる気があるけど、翌日は、“はぁ~掃除か・・”というように、浮き沈みがあるんです。この浮き沈みを無くしていくことが大切で、気持ちのコントロールをするのに掃除は本当に適していると思っています。自分に打ち勝つ練習ですね。

日下部お客様に言われて嬉しい言葉って何ですか?

北浦「お店綺麗ですね」と「従業員がいいですね」です。料理が美味しいのは当たり前なので、従業員が褒められるのが一番嬉しいですね。それから「裏口まで綺麗ですね」っていわれると更に嬉しいです。(笑)

日下部今日は良いお話をありがとうございました。

北浦 明雄・日下部淑美

日下部淑美からひとこと

最近は片づけや掃除に関する書籍も多く、断捨離という言葉も流行りました。
片づけや掃除をするということは、部屋をキレイにするだけではなく、人そのものを成長させる奥深さがあるようです。そこまで考えられる人はどれくらいいるのでしょうか。
人は人を見て成長します。最初は親、そして先生、上司と。誰もが誰かに見られているもの。
あなたはどんな背中を見せられるでしょうか?まずは掃除をしてみませんか?

会社データ 関連リンク

株式会社ブラザーズ

東京都中央区日本橋人形町 2-27-1

TEL: 03-3639-5205

代表者:北浦 明雄

BROZERS' ハンバーガー ホームページ

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