吉田松陰のように人を育て 出会えてよかったと言われる講師に
株式会社志践塾 代表取締役
戸谷益三
日本ロレアルの教育本部長として37年間教育を担当し、2005年から経営者支援セミナーを「志践塾」としてスタートした戸谷社長。独特な講座手法や人生計画書など、その生き方や考え方に多くの人が共感する理由とは?
ライバルとの差別化を図るために考えたお客様への研修
戸谷 益三(とたに ますぞう)
株式会社志践塾 代表取締役
化粧品会社大手日本ロレアル株式会社にて37年間教育事業に従事。人気だった教育事業を継続すべく、2015年、定年と同時に株式会社志践塾を設立し、企業を強い会社にするための「右腕塾」や「経営者塾」を主催。企業の経営・空気づくり向上を目指している。
日下部日本ロレアルにはどれくらい勤務されたのですか?
戸谷大学卒業後から約36年間です。
ずっと教育部で、最後は、お客様の会社の空気や人間関係を良くして、お客様の会社の業績を上げるための教育部署で仕事をしておりました。
ロレアルは日本では大きくはないですが、化粧業界の世界最大手でランコム、メイベリン、シュウウエムラ、ケラスターゼ、ラルフローレン、イブサンローランなどなどの多くのブランドをもっています。
日下部お客様の会社の空気や人間関係を良くするとは変わっていますね。
戸谷はい、元々は、お客様の会社(美容室)に自社商品の販促を目的とした部署として、営業から依頼を受けて動いておりました。どのメーカーも切磋琢磨しているので、世の中には良い商品がたくさんあります。そのなかで自社商品を差別化するためには何が必要か、考えた末に辿り着いたのがお客様への研修と商品紹介でした。
日下部それはどのようなものですか?
戸谷美容室の営業が終了した後に訪問し、最初の30分で商品説明、1時間半で実習、最後にまとめて2時間半ぐらいで終わらせるという感じです。
そこで、商品をモデルさんに使ってみて、良いと思って頂ければ購入して頂けるというデモンストレーションのような仕事でした。
日下部それを続けていらっしゃったのですか?
戸谷はい、そうです。しかし、途中でこのままで良いのかなぁと感じました。
日下部というと?
戸谷先ほどお話しましたように、どちらのメーカーも切磋琢磨しているので、世の中には良い商品がたくさんあります。単に商品説明より、お客様にお役に立てることをした方が良いのではと思い、数年後には、お客様の会社に訪問してすぐに経営者の方に「本日は商品のご紹介のお時間をありがとうございます。ところで、スタッフのやる気やチームワーク、言葉遣い、機転、リーダーシップなどで悩みはございませんか?」と社長に尋ねました。ほとんどの社長が「全部(笑)」とのお答えでした(笑)。
日下部皆さん、悩んでいらっしゃいますものね。それでどうされたんですか?
戸谷「特に何が問題ですか?今後どうなっていきたいですか?」などと更にお尋ねし、最後は「わかりました。では私に任せてください!」と言って、研修に入りました。研修をしながら、トップが求めていらっしゃることをスタッフの方々に理解しやすくお話しすると、終了後、スタッフの皆さんの空気ややる気になっている表情をご覧になって、経営者の方は大満足され、商品の購入だけなく「次はどうしたらまた来てくれるの?」と…またまた別の商品説明でお伺いさせて頂けます。お客様の会社も元気になり、商品もたくさん購入して頂けると云う感じでした。
日下部職場の空気をよくして、意識を変える流れを作っただけで、売り込んだわけではないのに消費が増えて商品の売上が上がるという仕組み。素晴らしいですね。
戸谷はい、その後、本社勤務になってお客様対象の「経営者セミナー」や「幹部セミナー」を担当して「経営者や幹部の方にとって何が必要なのか」など本当に学びになりました。
日下部それをロレアルの時代からずっと取り組まれてきたんですね。戸谷さんが定年後もこの仕事を継続しようと思ったのは、お客さんからの要望があったからですか?
戸谷はい、そうですね。他に趣味もないし、これしか出来ないというのもありますが、自分の講演を喜んでいただけるのは幸せでありがたいことですから。ちょうどその頃、会社の「経営計画書」のような「人生計画書」というものを作り、“何のために生きるのか”、“人生の目的は何か”を記しています。人生の目的は何なのかも考えました。
私の人生の目的は、“私自身が幸せになること”です。“私自身が幸せ”を突き詰めて考えました。それは、「意味のある贅沢をする」ことです。つまり“一人でも多くの人に、あなたと出会えてよかったと思ってもらうこと”です。そのためやることを広げずに、3つと決めました。
①職場の空気や人間関係をよくするお手伝い、②社長の右腕だけでなく、部長や課長の右腕も育てる右腕塾、③インスパイア力の高い経営者や幹部・講師を育てるリーダー育成塾の3つを取り組むことに。
①の職場の空気や人間関係を簡単によくする「しくみ」も考え、喜んで頂いています。
日下部「インスパイア」とは?
戸谷インスパイアとは、人の心の中に火をつけて、その人自身が「私にさせて下さい」と奮い立たせることと定義して、皆さんにインスパイア力を高めて頂いています。
日下部インスパイア、素敵ですね。ところで、会社はお一人でやられているのですか?
戸谷はい。私は日ごろ経営者の方に、給与をあげて社員を幸せにしていくのが使命だと伝えていますが、私のミッションの一つとして、学校やいろんなところなどでボランディア的な活動をしており、もし社員を抱えてしまうと、社員を幸せにするために売上を上げる必要が出てきます。するとボランティアどころではなくなってしまうので、今は一人でやると決めています。もちろんお手伝いは外注しております。
人生計画書にも書いていますが、私は吉田松陰先生のようになりたいと思っています。吉田松陰先生は人を育てるために心血を注いだ人物で、先生に育てられた人達が幕末の日本で素晴らしい活躍をしました。先生が作られた松下村塾が無くなってしまったように、自分の志を継承してもらえるのであれば、志践塾もなくなってもいいと考えています。そのために③インスパイア力の高い経営者や幹部・講師を育てるリーダー育成にも取り組んでいます
日下部主催されている「右腕塾」について教えてください。
戸谷はい、40年間で3000社と関わらせていただきましたが、会社が成功するかしないかは「99%がトップで決まります。」会社は、トップが決める戦略で決まり、戦略を間違えば全てダメになりますから。「トップが正しい判断ができるかどうかは、いい右腕がいるかで99%決まる」と言えます。
日下部右腕次第でトップの仕事の幅や、頭の回転や要領も違ってきますよね。
戸谷はい、トップが安心して、いろんなことが出来るのは右腕次第です。右腕はどうすれば良いかを「右腕塾」で学んでいただいています。
日下部どのようなことを学んで頂くんですか?
戸谷はい、最初に「右腕塾」では、トップは原則“変人”だと伝えています。40年間トップをみてきて、共通点はやはり“変人”なんです。変人といっても、本当に変人ということはでないですよ(笑)
日下部わかります。トップにとって“変な人”というのは誉め言葉ですよね。
戸谷おっしゃる通りです。トップは言っていることが朝と昼と夜で変わることがあります。それでも、それを受け入れていくのが右腕の役割です。昔の10年分よりも、現在の1年分の進化の方が早いと言われる中で、多くの決断をしていくのですから、情報によって決断が左右するのは当たり前です。ただし、忘れていることもありますので、そんなときは右腕がきちんと受け止めたうえで、トップに「恥をかかさないように」確認するように指摘するんです。それを「右腕塾」で学んでいって頂けます。
日下部なるほど・・右腕は基本的にどんな状況でも冷静に対応できる器が必要で、トップに安心させたうえで指摘事項を伝えるんですね。
他にはない独特の講座手法。実践しなければ意味がない
日下部先日、戸谷さんのセミナーを体験させていただきましたが、独特の講座手法ですよね。何度も何度も相手を変えて話をするという。
戸谷講師が一方的にしゃべるセミナーはナンセンスです。人は聞いているだけでは何も行動が変わりません。ワークなどを取り入れている講座もありますが、あまり意味のないワークも多いと感じます。
例えば、「さあ、今からグループに分かれて、この冷蔵庫を売るための方法を話あってください」と言われても、終わってから出てくる言葉が「うちは冷蔵庫なんて売らないし・・・」です。受講者は自分事に置き換えられないことが多い。これは極端な例ではありますが、実際は自分のことで話をしないと意味がありません。
私のセミナーでは、“帰ったら自分は何をするかを話してください”というワークをやります。相手のやることを聞き、自分がやることを何度も話していると、自分の考えがまとまっていき、他人の話で良いと思ったことも取り入れるので、どんどん洗練されていきます。
日下部なるほど。
戸谷人の話を聞くだけでは実践する確率は10%、話を聞いてノートに書く人は目からも入り、後で見返すこともできるので、実践する確率はもう少し上がります。そして一番実践率が高いのは教える人で50%もの実践率になります。
「わかりましたか?」「はい!」の「はい!」はとりあえず「はい」と言っておけという感じなので、人は話を聞いただけではほとんど実践しません。
ただ、経営者は別で、聞いただけで実践しなくてはいけません。経営者は自分自身ができてしまうので、つい自分以外も出来ると勘違いしてしまうんです。
日下部研修では同じ会社やチーム以外の人と組みますよね?
戸谷はい。それにも理由があります。例えば上司と組むと、“帰ったらこれをやります”と元気よく話をしても、上司によっては“それより数字をあげろ”と言われてしまうかもしれません。
知らない相手なら何を言ってもいいと思えるので、いくらでも大きなことを言えますが、どう見られているのか予測が出来る相手の場合、“ほどほどの話”にとどまってしまうんです。
それから何度も相手を変えるのは、時にネガティブな人がいるからです。自分がやる気になっているのに“そんなの無理だよ”なんて言われたら、その先ずっと相手に合わせた会話しかできず、発想も膨らみません。だから相手を変えていく必要があります。またネガティブな人も相手が変わることで徐々に考え方が変わり、前向きになっていくこともあり得ます。
日下部なるほど、相手を変えるのはそういう意図があったんですね。
戸谷動くと頭の回転がよくなりますし、場所によって直接冷房があたってしまう問題も、動くことでクリアできます。さらに遅刻して参加した人も状況を把握しやすいので、毎回説明しなくても相手との会話の中で理解してもらえるんです。
日下部考え尽くされた結果があの席替えの数だったのですね。
戸谷私はセミナーでは考えるヒントをお伝えする程度で、答えを言いません。なぜなら会社によって答えが違うからです。リーダーになる心得を並べても、“それはうちには無理”、“東京だから出来るんだよ”という心の声が出てきます。ですからどうやったら出来るかだけを自分たちで考えてもらうようにしています。
成功する人と成功しない人の違い。成功しない人は出来ない理由をものの見事に語ることができます。成功できる人は、どうやったら出来るかしか考えません。それが経営者の考え方です。幹部クラスでも半分はできない理由を考えていますね。。
日下部受講生は従来からの顧客や紹介などで集まり、特に営業はされていないのですか?
戸谷そうですね。紹介が主ですね。多くの素敵な方々との出逢いがあり、感謝です。
日下部先日参加させていただいた研修会場も受講生の会社の会議室ですよね?そういう方が協力していただけるのはありがたいですね。
戸谷私が勤めていたロレアルのライバル会社の会議室です。こんなことはなかなかないですよね。
実は10年前に居酒屋甲子園を観てとても感動したんです。お世話になった美容業界をもっと良くしていきたいと思っていたので、これは絶対に美容業界でもやらなければいけないと思いました。
居酒屋甲子園は社員に混ざってバイトの方もステージに立ちますよね?これが本当に素晴らしいと感じました。最初は覆面調査もせず “お前のところがステージに立て”みたいな無茶振りで「美容道甲子園」を始めました。
日下部今も美容道甲子園は継続されているのですか?
戸谷ロレアルを定年退職するときに、“これは社が所有しているものなので、個人的に使わないでください”と言われたので、「理美容道甲子園」に名前を変えて始めました。
今は美容室の経営者が入って継続的に開催されていますが、居酒屋甲子園のように盛り上がってはいませんね・・
日下部確かに居酒屋甲子園は凄いですよね。でも継続してやられているのは素晴らしいですね。
戸谷ありがとうございます。空気づくりだけでなく実際に売り上げに繋がるようなディスカッションもしてもらいました。本来は商品の使い方などでとどまるのですが、その商材を売るためにどうしたらよいのか?パーマが5000円だったものを6000円にできないか?そのためにはどんな付加価値が必要なのか?などを話あってもらうことで実際に売上が上がっていくんです。
日下部職場の空気をよくして、意識を変える流れを作っただけで、売り込んだわけではないのに消費が増えて商品の売上が上がるという仕組み。素晴らしいですね。
長い間ロレアルで仕事をされていて、途中で辞めたいと思ったことはないですか?
戸谷辞めようと思ったことは何回もあります。それでもやってきて良かったと思っています。
辞めないで頑張るにはどうしたらよいのか?を自問自答しながら工夫してきましたね。
日下部工夫が出来たことが素晴らしいですね。お手本になる先輩がいたのですか?
戸谷はい、先輩だけでなく、後輩も…そして多くの出逢いですね。TTM(正しく・徹底的に真似をする)を研修でも伝えていますが、見本になる人がいたら、その人のことを徹底的に・真似をさせていただく。私も誰かを見本にする場合は、一人だけを真似をするのではなく、その人の良いところだけを真似る、また別の人の良いところを真似る。そうやっていつしか、“戸谷”が出来上がったわけです。
日下部なるほど。誰かを徹底的に真似ることで、オリジナルが生まれてくるということですね。
戸谷はい、セミナ―のやり方も時代背景と共に進化していく必要があるので、自らも学び必要なことを取り入れ、様子を見て改善し、今の形が出来上がりました。昔はスパルタ的なものも受け入れられましたが、今はパワハラになってしまいますので、これからも時代に合わせて進化していくことが重要です。
日下部維持しているように見えて、本当に維持するためには進化が必要ということですね。
戸谷TTMは、単にマネをするだけでなく、将来的にも、TTM(他人や・他社から・真似されるようになること)を目標にしてほしいと伝えています。
お一人お一人が、TTMされる、憧れられることも目標にされているから皆さん、常に燃えられているんですね。
ATMを実践し周りの空気を元気に
日下部戸谷さんはお一人で講座をやっていますので、自己管理が大事だと思いますが、どんなことをされていますか?
戸谷過去にギックリ腰を経験しているので、ジムでのストレッチなどできるだけ体を動かして、太らないように心掛けています。お腹が出てきたら “この先生自己管理もできないのか”と思われますので(笑)。
日下部自己管理ができない人が人のコントロールは出来ないですし、説得力もないですよね。
戸谷それから服装やヘアスタイルにも気を使っています。見た目というのはとても影響力があるので、64歳でもすごいなと思われるように、元気そうに見せるのが大事だと思っています。
日下部人はまず見た目で判断しますからね。また、ぎっくり腰もあったからこそ、日ごろ気をつける意識が高くなったんですね。
戸谷帰りが早ければ、整骨院に行って調整してもらったり、自分でも気をつけるように心がけています。睡眠時間は最低6時間程度はとるようにしていますが、足りない場合は車中で短時間だけでも寝ることでスッキリできますね。
口から発する言葉も意識していて、ネガティブなことは言わないようにしています。でも人間ですから言いたくなることありますよね・・そのときは最後に一言ポジティブなことを加えるようにしています。例えば、“疲れたな、でもこの年で結構頑張っているな!”とか。
日下部素晴らしいですね。最後はポジティブでしめる!ということですね。
戸谷それからATM(明るく楽しく前向き)を実践しています。これを自分が取り組むことで、周りの空気が元気になっていきますし、自分の元気がないときは、周りが自分に元気をくれるようになります。
本当のATMの預金引き出しのように、元気を貯蓄をしておくと、元気をもらえるという仕組みです。
日下部確かにいつも元気をもらってる人が落ち込んでいたら、力になりたいと思いますね。最後に戸谷さんの今後の展望を教えてください。
戸谷講師育成しているメンバーの会社が成長し、そのメンバーが教育する立場となって地域を活性化している風景をみたいですね。そして年寄の自分がふらっと店に入って小言を言う・・みたいなことをやってみたいです(笑)。そして吉田松陰のように教育したメンバーが活躍し、僕の葬式のときにそのメンバーが女房に聞こえるように、“戸谷さんに出会えてよかった”と言ってもらえたら幸せですね。
日下部人の価値は死に際に分かるといいますよね。私も吉田松陰を目指します。今日は素晴らしいお話をありがとうございました。
日下部淑美からひとこと
長い人生の一コマだけで、その人生が良かったのか、自分は正しかったのか、不幸だったのか、幸せだったのかは判断ができません。死に際に人から“どんな人だった”と言われたいか。
これが“今”という一コマをどう生きるべきなのかを左右するものです。だからこそ自分らしく良い人生を生きるということは、“今を大事に生きる”ということになるのだと、今回のインタビューで改めて自分の人生計画の大事さを認識しました。
皆さまも是非人生計画を立ててみてはいかがですか。
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株式会社志践塾 千葉県柏市旭町4-11-42-311 代表者:戸谷益三 |
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