女性の代表として育児と経営が両立できる手本でありたい
株式会社興栄 代表取締役
慶佐次 真紀
着物のコンテンストで4回の優勝実績がありながらも、妊娠を機に仕事がうまくいかなくなったという株式会社興栄の慶佐次社長。会社設立時のご苦労や育児と仕事の両立についてお話しを伺いました。
メンタルがよくないと仕事がうまくいかない
慶佐次 真紀(けさじ まき)
実業家の祖父の影響を受け、持ち前の体力と行動力で28歳で起業。従来の着物を伝承しつつ独自の新しいデザインで着物業界でも人気を博している。「着物女王コンテスト」で4回の優勝を誇る。
日下部最近、お子さんを出産されましたが、育児と仕事で苦労などはありますか。
慶佐次会社のスタッフであれば産休を取ってもらうのですが、私は出産の2日前まで働いていました。自分でもここで産んでしまうのではないかと思いました(笑)。スタッフも、ここで産んだら私達が取り上げてあげるわ!と言ってくれていたので、心強かったのですが・・・。
年に1回開催される「着物の女王コンテスト」という大会があり、その大会が近かったので、出産後1か月で復帰しました。実は2012年、2013年、2014年、2016年と4回優勝していて、妊娠中の2015年は残念ながら優勝できなかったんです。この年は10人くらい出場したのに、一人もダメだったので、本当に落ち込みましたね。
妊娠したことで自分が女性として、母親として、自覚をもたないといけないと思ったら、仕事でスランプに陥ってしまったんです。今まで経験したことのない環境になったことで2015年は相当悩んだ年でした。
日下部そうだったんですね。倫理法人会にも入っていらっしゃるようですが、何かそこでの指導は受けられたのですか?
慶佐次受けました。 娘が産まれてからは、会社の従業員も前より協力的になってくれて主人の協力の元、今は前向きに仕事と育児の両立が出来てきました。倫理指導も受けてから自分の意識が変わり、今まで自分だけで頑張ろうとしてきましたが、もっと従業員を信じて頼りながら、周りの方へ良い意味で甘える事が出来るようになりました。 それまでの間は悩んだり不安もありましたが今は1人で頑張らなくても良いんだと思い気持ちが楽になり、自然体で仕事が出来ています。
日下部実際に真紀さんと同じようにバリバリ働いてきた女性なら、きっと同じことで悩むように思います。プライベートが充実していたり、気持ちが満たされた良好の状態のほうが仕事はうまくいくと言いますから、その不安が2015年のコンテストの結果になってしまったのですね。
慶佐次でも出産直後は気持ちも切り替えられるようになって、子供を預けてコンテストの大会に出場したら優勝することができたんです。主人にもちゃんと協力してもらえていますし、もちろん不安などはありますが、楽に考えられるようになりました。
初めて着付けをしたときのお客様の笑顔が忘れられず、今も自分の力に
日下部話は変わりますが、この着物の仕事を立ち上げた経緯など教えてください。
慶佐次染織科という着物のデザインの高校を卒業したので、着物っていいなと感じていましたし、自分で着物が着られたらいいなという想いもありました。
祖母が自分で縫った着物を着ていた人だったので、着付けも習いながら自分でデザインしたものが着れたら素敵だなって思っていたのですが、卒業制作で紅型(びんがた)という沖縄のデザインで振袖を作ったんです。自分でデザインした紅型の振袖を、自分の成人式で着たときに、ものすごく感動して、自分でデザインした着物を着る喜びを感じたんです。
そのあと、東京の美容学校に行くために上京しメイクを専攻しました。メイクは「洋」だったので勉強して改めて自分は「和」が好きなんだって気づきました。それで、着物の修行をするために京都に行き、そこでデザインも始めたのですが、それこそ人間国宝くらいにならないと食べていくには難しくて、好きでやっているだけでは食べていけないんだと理解したんです。沖縄から出てきて一人で生活していましたし、沖縄に戻ってもこれでは仕事にならないだろうし、現実的には難しいと思ったんです。
そこで、生活ができるレベルの仕事で、自分が好きなことは何かと考えたら、“着付け”にたどり着いて、初めて人に着させてあげたときに快感を覚えたんです。お客様もすごく喜んでくれて、その喜んだ笑顔を見ると自分もパワーをもらえました。それが脳に焼き付いていて、私は人を気持ちよく笑顔にさせるお仕事がしたいと思い、着付けの免許を25歳の時に取得しました。
それからいろいろな人の下で働き、28歳のときに、誰かの下で働くのでは自分のやりたいことができないと悟ったんです。自分がデザインした着物を着て欲しい、当時まだ世の中に自分の思うような着物が出回っていなかったので、こんな着物があったらいいなというものを現実に作っていきたい、という想いが強くなって、自分で会社を起こそうと始めてしまいました。
私が24歳のときに祖父が亡くなったのですが、祖父は泡盛の蔵主をやっていて、ビルまで建ててしまうほど、ずっと商売人だったんです。祖父は休まず仕事をして頑張っていた人で、私もとても尊敬をしていました。
私は父親がいないので、その祖父が父代わりだったとうのもあり、亡くなった時はショックで3年間くらい立ち直れず落ち込んでいました。今の会社の社名“興栄”は、実はその祖父の名前をいただいたんです。“興して栄える”という名前も縁起がいいですし、祖父の魂がこの会社を受け継いでくれて、私を守ってくれているような気がしています。
始めて3年くらいは寝ないで働いていました。最初は一人で立ち上げたので、着物のデザインも、縫う作業も全部一人でやる必要があり、朝から夜の11~12時まで働いていましたね。苦しかった部分はありますが、自分の好きなことだったので、すごく楽しんでいました。
そうやって会社を継続していたら、お客様も来てくれるようになり、アルバイトやパートさんを増やすことで会社もさらに大きくなって、お客さんも増えていったという感じです。
お客様を大事にしたいという気持ちを優先し、人と人との触れあいや、会話などを大事にしていました。特に女性の場合、友達のように悩みなどのお話を聞いていたら、口コミでも評判が広がっていくようになったんです。
日下部着物は高価なものなので、創業時にレンタルできるだけの着物を揃えるだけでも、かなりのお金がかかりますよね。身軽にパソコン一つで始められる仕事と違いますよね。
慶佐次そうですね。最初はレンタルできる着物も30着くらいしかなくて、本当に全てのものが少なかったのですが、5000万円くらい経費がかかりました。その後、物を揃えていくとさらに1億円はかかりましたね。
日下部しかもレンタルするからには、自分が買えないクラスのものをレンタルしたいというのが人の心理ですから、お店側としてはそれなりのものを揃えていないと、せっかくのお客様が離れてしまいますよね。結構その投資が大変だったのではないかと思ってしまいます。
慶佐次そうなんですよ。なので寝ないで働いていました(笑)。資本金をためるために昼も夜も働いて、10年間は睡眠3時間でした。何故か体力には自信があって、正直、どこからこのパワーが出たのか自分でも分かりませんでしたが、やりたいという信念と、私は絶対成功することしか考えていなかったですね。
日下部凄いですね。
慶佐次創業当時はまだ20代後半で、そんな私が着物の問屋街に行って取引させてくださいって言っても門前払いなんです。そちらの会社とはお取引していませんので。と断られてしまうんです。でも諦めず、そこに居座って取引させて欲しいと何度も言って、それでようやく受け入れていただいた問屋さんが何件もあります。問屋さんからも、こんな人初めてだ、本当にしつこいって言われました。取引してもらえるようになるまで、ずっと一人で交渉してきました。正直無謀でしたね(笑)
日下部雰囲気が柔らかいというか、穏やかなので、そんな風には見えないですね。
慶佐次中身は男なんです(笑)。見た目と中身のギャップがあるみたいで・・・。仕事中は顔つきも変わるので、好きな人には仕事の顔は見せたくないですね(笑)。でも、家では主人にいろいろ任せて、私は穏やかについていっているだけです(笑)。
自分の好きな着物を仕事にできる幸せと、日本文化を伝承している喜び
日下部場所は最初から銀座ですか?
慶佐次はい。やはり、銀座が一番着物を着ている人が多いというのと、夜のお仕事をされているお客様は、普通の着付けと違うんですね。私はその着付けも得意だったので、やるなら銀座と決めていました。
日下部お客様はリピーターの方が多いのですか?
慶佐次リピーターの方と新規の方が半分ずつくらいです。お食事会で着るときもあれば、結婚式や結納で着ることもあります。お茶会などで着る方もいらっしゃいますよ。
日下部確かに着物で集まるような会が最近人気がありますよね。
慶佐次そうですね。最近は着物が見直されていますから増えていますね。
日下部今は、着付けとレンタルが主ですか?
慶佐次はい。販売もしています。販売用に並べて飾っているわけではありませんが、常連さんなどの要望で可能なものは販売しているんです。
日下部銀座は、毎年浴衣で銀座を歩くといろいろなお店からサービスが受けられるようなイベントがありますよね。
慶佐次あります。そのときや花火大会などは着付けの予約が朝の6時くらいから入って、ここは戦場になりますよ。
日下部それは大変ですね。着付けなどの流れはどんな感じなんですか?
慶佐次ご予約いただき、こちらに身一つで来ていただいければ大丈夫です。うちにはアドバイザーもおりますので、一緒に着物や浴衣を選んでいただき、着付けをしていきます。メイクやヘアメイクもここで出来ます。
レンタルは1泊2日でご提供しているので、次の日にご返却いただくか、当日の帰り際に寄っていただいたり、遠方の方など郵送で送っていただいても大丈夫です。
今は外国人の方も多くて、着替えて写真撮影だけされる方もいますね。着物は洋服と勝手が違いますので、お手洗いの行き方や座り方など簡単な所作はお伝えしています。
日下部この仕事をしていて良かったと思うことはどんなことですか?
慶佐次自分の好きなことができて本当に幸せですし、日本文化を伝承していることも喜びです。スタッフのみんなに支えていただいているおかげですね。
このお仕事には定年というものがないので、体が健康であれば70代でも80代でもできるお仕事だと思います。自分の娘にも着物のことを分かってほしいなと思いますね。子供がまたその子供に伝えてくれたら嬉しいですよね。
日下部そういえば、お子さんは保育園に入れることができたのですか?
慶佐次いえ待機児童です。本来なら会社に連れてくれば迷惑がかかると思うのですが、スタッフみんなが一緒に育てるからと言ってくださって・・・本当に助けられています。
日下部女性ならではの職場ですね。本当に子供が生まれると女性は外に仕事には行けないですよね。男性が外で働けるのは子供の面倒をみてくれる奥様の支えがあってのこと。専業主婦っていうのはすごい仕事ですよね。
これから先、スタッフさんの中でも子供が生まれたりしたら、会社に連れてきて働ける環境を作ってあげられるかもしれないですね。それも女性経営者だからできる環境づくりなんだと思います。
慶佐次本当にそうですね。本当に両立していくって大変ですけど、両方完璧にしたいと思ってしまうんですよね。なので、そういうスタッフの方がいれば、私は受け入れたいと思っています。実際に子供がいるので短い数時間しか働けないという方でも採用したりしています。
日下部今はスタッフさんは何人いらっしゃるのですか?
慶佐次20人くらいで、ローテーションしています。それだけいても繁忙期は人が足りず、自分が3人分くらい働かないといけないのですが、今は3人分が出来ないのがもどかしいですね。
同じことの繰り返しではなく、常に新しいことを考えていくのが着付けの仕事
日下部成功の秘訣はなんだと思いますか?
慶佐次スタッフと随時相談して一丸となって進めていることや、お客様の声を聴いてそれを反映したり、思いついたことをすぐに実行することですね。
今まで無かったデザインを作ったことで、着物の業界で話題となり、売上も伸びたので、すぐにやるという行動力は本当に大切だと思うんです。最近は本物のスワロフスキーを着物につけてみたら凄い人気になっています。お客様からも、他にないものがあるからここに来たと言っていただいています。値段も手ごろな価格にしているところもリピートに繋がっているんだと思いますね。
日下部着物を着ると、通常の洋服をきているときと感覚は違うものですか?
慶佐次違いますね。背筋が伸びるような感覚で、日本人ならではの感覚を取り戻す瞬間を味わってもらえると思います。アンケートをみると、最初は着物をきることを悩みながらここに来る方が多いんですね。でも、最後は着て良かったとみなさん答えてくれています。一度着ると潜在的な日本人のDNAがうずくのか、着物に引き込まれる方が多くて、着物には魔力があると思います。
この仕事って古風な印象で、同じことの繰り返しと思われがちですが、実は常に新しいことを考えている必要があるんです。デザインもそうですし、新しい技術を取り入れたり、帯の結び方も常に勉強していて、創作結びも新たに勉強して特訓したりしています。
裏方のお仕事なので、縫物やアイロン作業、たたんで片づけるといっても何千枚もあるので、本当に大変な作業なんですよね。着付けをするまでの作業のほうが大切で、そこが出来ないとお客様に満足してもらえるサービスは提供でいないということをいつも話ています。
日下部これからの目標を教えてください。
慶佐次この着物の仕事で、銀座で常にトップクラスにいるのが自分の夢でした。そして11年間ずっと黒字でやってくることができました。これからは、子供を産んでも両立しているお手本になれるよう、会社を盛り上げながら育児もして、着物のクオリティも下げないようにして、お客様の要望以上のものが作れるようにしていきたいです。
また将来的には、若い方の育成ができるような学校をつくりたいと思っているのですが、それは私が50歳を過ぎてからやりたいと思っています。
日下部健康管理で気をつけていることはありますか?
慶佐次95歳まで生きた祖父からの教えで『美食少食』を心がけています。仕事が忙しくてもなるべく家で食事を作るようにしています。お味噌一つにしても生きた麹菌のお味噌を取り寄せたりお値段が少し高くても無農薬や有機栽培のお野菜を食べるようにしています。
体力勝負の仕事の主人にもバランスの良い食事をして欲しくて毎日朝は果物と野菜のスムージーを、夕食も毎日野菜や海藻が多めの献立を考えて作っています。 後はお水を沢山飲むようにする事と、岩盤浴です。
日下部今はお子さんにとっても、真紀さんにとっても、とても恵まれた環境になっているようですね。元気な二人目を生んでください。ありがとうございました。
日下部淑美からひとこと
想いを貫くというのは簡単なようで簡単なことではありません。
人はついついブレーキ(マイナスの思考)とアクセル(プラスの思考)を両方踏んでしまっているものです。それは倍の労力がかかる割に前に進まないことを意味します。アクセルだけ踏めたらどんなことも成し遂げられるのかもしれませんね。人は年齢や環境によって体力も気力も変化するものです。自分の置かれた状況に合わせた健康管理は必須事項。それができる人が本当にやりたいことを達成できるのかもしれません。
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