自分のホスピスに入って、最後は断食安楽死が理想
カイロス・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役社長
高橋 正
建築士を辞めて介護の仕事につき、日本初のシェアハウス型ホスピス住宅を小田原に開設。日本の高齢者問題に正面から向き合いながら、自己決定の下で“自分の終い方”ができる住まいとサービスを目指す。
建築士時代には得られなかった世の中のためになっているという実感
高橋 正(たかはし ただし)
カイロス・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役社長
2014年8月日本初のシェアハウス型ホスピス住宅「ファミリー・ホスピス鴨宮ハウス」を神奈川県小田原市にて開設し、同年名古屋のナースコール株式会社の代表取締役社長にも就任。今後、名古屋と首都圏を中心に訪問看護ステーションとホスピス住宅の組み合わせによる在宅ホスピス事業の全国展開を目指す。
日下部社長は心臓の手術をされたと聞きましたが、いつされたのですか?
高橋3年半前です。以前は建築の設計の仕事をしていたのですが、建築業界というのはとにかく呑むんですよ。「浴びるように呑む」という表現がぴったりです。ワイン2本くらいあたり前のように飲んでました(笑)それを頻繁に繰り返していましたから、体も壊れますよね。
日下部それは凄いですね。社長は建築士の仕事をされていたということですが、介護の仕事を始めた経緯を教えてください。
高橋20代は東京の設計事務所に勤めていて、平成2年のバブルがはじけた頃に独立したのですが、1年で仕事がなくなり、故郷に戻って知人の会社で仕事を手伝うことになったんです。アパートの企画・設計・建築と入居者管理の事業だったのですが、順調に売上を上げていました。
しかし、アパートに入居する若い世代が減ることがわかっていましたから、高齢者を対象としたビジネスに目を向けるようになり、介護事業を取り組むようになったのです。
外部から社長をヘッドハンティングしたのですが、なかなか考えが合わず、結局私が介護事業の責任者として社長をやることになりました。
最初はうまくいかなかった介護事業も、看取りの住宅や認知症の住宅を取り組んだことで、周辺地域のケアマネージャーさんや病院との信頼関係ができ、スタッフもモチベーションが上がりました。業績も上がり始め、3年目に黒字転換することができました。
しかし、黒字化した途端に親会社が我々の会社を売ってしまったため、私はそれを機に独立して今の「カイロス・アンド・カンパニー」をゼロから立ち上げたわけです。
日下部独立の際に建築士としてではなく、ホスピスを取り組もうと思った理由は何ですか?
高橋自分の設計の能力の限界もわかりましたし、今の日本は、どんどん建物を建てる時代ではなくなっています。建築設計というのは、芸術的な評価とテクノロジー的な評価があって、皆、芸術的な建築家を目指したいのですが、皆が安藤忠雄さんのようになれるわけではないんです。
昔(自分が目指していたころ)とは、今の建築士の立ち位置が構造的に違ってきましたし、自分は建築からは身を引きました。
介護の世界に入り、家族の方に手を握られて“ありがとございました”と涙を流して言われたりすると、本当に世のためになっているんだと実感させられる事があります。建築士の時代にはそんなダイレクトな感謝には出会うことはありませんでしたから。感動しましたね。
そんなダイレクトな感謝をいただくようになったのは、看取りや認知症に真剣に向き合うケアに取り組んでからだと思います。難しい部分もありますが、だからこその社会的意義の感じられる職域ですし、まだ未成熟な領域なので、やりがいもあったのです。
死に向かう時間に価値を創造する会社
日下部日本の高齢社会における問題点を教えてください。またその問題には、どのように向き合っていこうと思っていますか?
高橋今の日本においては年に120万人程度の方が亡くなっています。そのうちの3人に1人ががんで亡くなる時代です。今後死亡者数は年160~170万人まで増えます。今まで介護の問題を中心に日本の高齢化問題が語られてきました。今後の大きなテーマは、「多死時代」への対応です。認知症高齢者が増大することも重要なテーマですが、認知症は近い将来いい薬が開発されると予想されています。しかし、「死」は永遠に逃れられないテーマでしょう。
これからは“死に場所”をどうするかが大きな問題となります。“体が弱ってから死ぬまでの時間”が昔に比べて圧倒的に長くなっています。医学の進歩のおかげで生かされるようになったわけです。
この療養期(障害者として生きる時間)をどう生きていくかが問題で、本人や家族にとっても大きな問題になります。この時期の生きる価値をどう生み出すかが私のテーマです。
病院は命を救うための施設で、どう死から遠ざけられるかをマネジメントしていますから、死に向かう時間にどう価値を創造するかということには長けていません。
介護事業者は死と向き合う直前までのサービスに長けていますが、いよいよ死を前にしたら、限界を感じていると思います。”人生を終う”という事は多様的で多層的な問題です。そうした複合的な問題を総合的にサポートしたり、死に向かう時間に価値を置いたマネジメントは特別な知識と高いコミュニケーションスキルが要求されます。プロフェッショナルであるべき職域だと考えます。
自己決定の下で、“自分の終い方”ができるためにはこういったプロフェッショナルな支援が必要だと思い、あえて「ホスピス」という名前を使って、ここを支援するサービスを事業としてやろうと思ったのです。
日下部高橋社長は海外のホスピスに見学にも行かれたことがあるようですが、海外と日本ではホスピス事業に違いがありますか?また海外には寝たきりという言葉もありませんが、日本は寝たきりが世界一多い理由は何でしょうか?
高橋もちろん海外でもホスピスや病院に行けばベッドに寝ている人はいます。日本は圧倒的に病院で亡くなる人が多いですよね。日本の病院では患者が動けることをリスクとしてとらえてしまうのです。勝手に動かれて点滴の針を抜いてしまったりしては困るので、様々なかたちで行動抑制をすることが行われます。これが長く続くと人間は大きなダメージを受けてしまいます。命を長らえることの意味や目的が不明確なまま医療が関わってしまっているという事が、寝たきり老人を増やしてしまったのではないでしょうか。
老衰の延長上にある「死」は人間にとって自然なプロセスです。自然なかたちで「死」に向かっている身体に無理な医療行為を施すことは虐待であるという考え方が西洋にはあります。ある時期から積極的な医療はしてはいけないという価値観が医師も患者も家族も共有しています。不要な医療が施されないですむ社会環境があります。
日下部病院に入院する前までは口で食べていた人が、入院後に誤飲を予防するために経腸栄養とか、点滴になってしまい、結果、口から食べられなくなってしまったり、口すら開けなくなってしまうなんてことがあります。これが生かそうとしていることなのか?と疑問に思いますよね。
高橋欧米では口から食べられなくなったら、それは死を受け入れるときであると考え、そこからの延命はあまりしない。国の税金を使って80歳90歳の人に対して医療を施すことはあまりしないと聞きました。
逆に、もう体が食事を欲しておらず天命を全うするときに、無理矢理栄養を入れることは虐待に値するのです。それは税金が無駄に使われてということではなく、それが自然であり、そうあるべきだと思っているからです。
日本では1分でも1秒でも生かそうと、高額でもなんでも手を施すのが医療と思っていると感じます。
日下部そもそもの考え方が違うのですね。寝たきりの人が世界1多い国というのも納得ですね。でも寝たきりになってからホスピスに入るよりも、まだ元気なうちにホスピスに入って、仲間を作って、最後を楽しく過ごすのが理想ですよね。最後の手に負えないときに入ってくるよりも、もっと違ったホスピスの活用ができたらと思ってしまうのですが、難しいのでしょうか?
高橋死期の判断が難しいこともありますが、実際に私が理想と考えるホスピスの取り組みが理解されるのには、かなり時間はかかると思います。
アドバンスケアプランニングという考え方があります。エンディングノートが流行りましたが、これは財産のことや葬儀のこと、お墓はどこになど、亡くなった後のことをいろいろ書くわけです。多くの人がピンピンコロリを望んでいるといわれていますが、実は救急搬送されて24時間以内に亡くなる人は、実際に4%しかいません。それ以外の人は生かされてしまうわけです。3割の人はもとの元気な状態に戻れますが、それ以外の人は救命された後に何らかの障害を抱えて生きるのが現実です。亡くなる前、療養期に入って障害者として生きる時期にどう生きたいかをデザインするのが、アドバンスケアプランニングです。エンディングノートより大切なものだと思いますので、セミナーを開催したりして啓蒙していきたいと考えています。
日下部社長は設計士なので「終末期設計士」なんてどうですか?(笑)。建築以外でも設計士になれたらいいですね。人生のプランナーとか終末期のプランナーっていう肩書の人には会ったことないですし。
高橋高齢期に救急車で運ばれるというのはどういうことを意味するのかということを理解しておかなければ、とんでもないことになると思って下さい。救急搬送された場合には、気管支挿管のチューブを入れるか入れないかはいちいち聞いてくれません。入れてしまったチューブを抜くことは殺人になってしまいますから抜けません。苦しい状態のまま生かされ続けてしまうわけです。これは一例ですが、救急車を呼ぶという事はこういう事です。
以前胃ろうが社会問題になったこともありますが、全てが悪いことの様に扱われてしまいました。良い効果がある人もいる。どんなことでもメリットデメリットがあるので、良く事前に理解しておくことです。
自分で理解して方針を決めたら家族とも共有する必要があります。アメリカではリビングウィルというものが法律で有効なものと認められていますが、日本では遺言書以外は、法的に有効なものとは認められません。病院では、本人の意思が確認できないときは家族に判断を求めますので、本人の意思と反することもありますが、この場合病院は家族の判断を優先します。遺言書は死んでからしか開封できませんので、終末期にどうしたいということを書いても意味ありません。終末期の本人の意思がどう尊重されるか、これが今後の課題のように思います。
ファミリー・ホスピスのフィロソフィー
手紙・・・親愛なる子供たちへ(作者不詳のポルトガル語の詩より)
年老いた私がある日 今までの私と違っていたとしても
どうかそのままの 私のことを理解して欲しい
私が服の上に食べ物をこぼしても 靴ひもを結び忘れても
あなたに色んなこと教えたように 見守って欲しい
あなたと話す時同じ話を 何度も何度も繰り返しても
その結末をどうかさえぎらずに うなずいて欲しい
私の姿を見て 悲しんだり 自分が無力だと 思わないで欲しい
あなたを 抱きしめる力がないのを 知るのはつらい事だけど
私を理解して 支えてくれる 心だけを 持っていて欲しい
(中略)
きっとそれだけでそれだけで 私には勇気がわいてくるのです
あなたの人生の始まりに 私がしっかりと 付き添ったように
私の人生の終わりに 少しだけ 付き添って欲しい
あなたが生まれてくれたことで 私が受けた多くの喜びと
あなたに対する変わらぬ愛を持って 笑顔で答えたい
私の子供たちへ
愛する子供たちへ
自分のホスピスに入って、最後は断食をして死んでいくのが理想
日下部介護保険や医療保険など制度の問題で、取り組みに制限があるようなことはありますか?
高橋問題があるとは考えたことはありません。制度は活用するもので、制度に従ってはいけません。使える制度を選択していけばよいと思っています。だから特に問題にはならないです。これからは制度を使用する人が増えていき、その負担者は減ります。一人あたり使える金額を少なくするか、使える人を絞っていくのか、どちらかしかないのは自明です。騒ぐ方がおかしくないですか。
日下部日本も西洋のように寿命を全うすることを尊重し、無理矢理延命することに医療費をかけなければもっと有効的に必要な方に費用も活用できるわけですよね。
高橋そうですね。日本の問題はやはりがんの死亡者が増え続けていることです。これは物凄い問題だと思いますよ。日下部さんもいつもセミナーなどで言うように、がんは自分が作っているものです。日本はまだそこに気づいていないのでしょうね。生活習慣病であるがんは、日本国民が真剣に予防に向かっていかないと減らないわけですよ。
がんには高い医療費がかかっています。平均寿命が延びるのと一緒にがんは増えているわけですが、がんを減らす最大の施策は予防にあると考えています。
日下部社長のこだわりでホスピスの食事にも力を入れるというのは、やはり少しでも自分の生命力や治癒力を高めて欲しいという想いがあるのですか?
高橋自分で納得できる人生の終わり方を望むのであれば、極力薬に頼るとか、人の手をわずらわすというようなことは少なくすべきだと考えます。食事が大きな自助力を生むと考えています。美味しく食べられる日常食の中で、その人に必要な栄養管理が自然にマネジメントされているという食事が理想です。食事の事業も大きな柱にしていくことを検討しているんですよ。
日下部実際に介護が必要になったとき、社長は自分のホスピスに入りたいと思いますか?
高橋自分が入りたいと思う場所をつくりたいと思い始めたものなので、自分のホスピスに入って、最後は断食によって安楽死するのが理想ですね。西行のように自分で死ぬ日も決めてねらいたいですね。
日下部死ぬ日まで決められるほど、人生設計できたら凄いですね。ホスピス型のシェアハウスって最近はよくあるものなのですか?
高橋ホスピスも増えました。独立型ホスピスはかなり近いことをやっているかもしれません。ホームホスピスもとても素晴らしいことをやっています。ただ、私が目指すものとピッタリあてはまるものはありません。
私の考えるものが最良とは思っていません。多くの選択肢を与えられる環境づくりが大事だと考えています。
欧米の文化だったホスピスをいつか逆輸出したい
日下部これからの展望などを教えてください。
高橋これから高齢者が首都圏に集中して増加するわけです。ほとんどの人が過去に東京に移住してきた人です。そういう人は最後の療養期と死に場所としてどういう死を選ぶのか。今までの高齢者像とはまったく違う新しい高齢者像を見極めていかなければいけません。とてもワクワクするビジネスです。コンパクトなサービスネットワークを在宅サービスとホスピスハウスの組み合わせで創造していきます。首都圏の主要沿線の各駅にこのサービスネットワークを創りたいと考えています。また、本来ホスピスは欧米の文化だったのですが、できることならいずれは欧米に逆輸出したいと思っています。
日下部忙しい高橋社長の健康維持や管理について教えてください。
高橋僕はもともと飲酒量が多く、10年前に不整脈が出て、肝機能やコレステロールの数値も悪かったのです。この業界になって自分が健康を意識していかないと、お客さんにも説得力がないですから、自分の意識も変わってきています。最近はスターバックスコーヒーでのオーダーは必ず牛乳ではなく豆乳にしています(笑)。1か月前からお酒もやめたんです。
日下部さんのセミナーを聴いて、これはと思うものは少しずつ実行しています。また多くの情報の中から自然治癒力を高められそうなものは、まず自分で実行してみようと考えています。
日下部淑美からひとこと
今の日本が抱える大きな問題は間違いなく高齢化社会問題。そして医療費の問題。
この2点の問題と向き合う事業が福祉・介護・終末ケアだと思います。
介護される側、介護する側共にこれからの人生設計を考えていく必要があることを痛感させられます。”どう死にゆくか”ということは”どう生きるか”に等しいのではないでしょうか。
寝たきりが世界一多い日本ですが、国の財政からすると今後のサポート体制は期待できるものではありません。 できれば最後までやりたいことに取り組めたり、食べたいものを食べたりできる人生にしたいですよね。
BODY INVESTMENTではそんな人が一人でも多くなるようにこれかも情報発信していきます。
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カイロス・アンド・カンパニー株式会社 神奈川県小田原市栄町2丁目7-37 KTプラザ4F TEL: 0465-43-6644 / FAX : 0465-43-9913 代表者:高橋 正 |
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