これまでの研究成果を世の中のために役立てていきたい

アジア細胞治療学会 理事長

下坂 皓洋

ホップで水虫を抑制する特許を始め、いくつもの薬を上市させ、世界的な研究やプロジェクトにも重要メンバーとして参加されている下坂さん。医療にとどまらず教育や行政のあり方まで、幅広い見識で日本の問題点をご指摘いただきました。

ビールに使われるホップから水虫を抑制する成分を見つけ特許を取得

下坂 皓洋

下坂 皓洋(しもさか あきひろ)

アジア細胞治療学会(ACTO) 理事長
東京大学医科学研究所 学術支援専門職員
中國医科学院中國協和医科大学血液学研究所 名誉教授
北京大学腫瘍病院 名誉教授
第四軍医大学 客座教授
中國黒龍江省血液病研究所 名誉教授
大連民族学院 客座教授

日下部これまでの経歴を教えてください。

下坂もともと私は東京大学農学部農芸化学科で生化学の研究をしていました。ビタミンBの発見をした鈴木梅太郎が作った研究室で、東大の中で最も古い研究室です。親は大学院まで進んで欲しかったようですが、お世話になった教授が定年で退官するので、内緒で就職活動をし、キリンビールに入社しました。

日下部なぜキリンビールだったのでしょうか。

下坂叔父達には医者がいて、父親は旧日本製鉄でしたので、親族や知り合いがいない業界で面白そうな企業を探していたらキリンビールに辿りつきました。
最初は研究所の配属になり、ホップエキスの研究をしていました。その時ホップ由来の水虫の薬を見つけ、特許を取得しました。

日下部すごいですね。ホップが水虫の薬になるんですね。

下坂ホップには抗菌作用があるため腐りませんが、何が腐敗を阻害しているのか研究したところ、カビを抑制する成分を見つけました。水虫は白癬菌が原因菌なので、非常に効果がありました。

日下部それは薬として上市されたのでしょうか?

下坂ホップの成分が水虫に効くなんて、ビールのイメージが悪くなりそうなので、開発には進みませんでした。(笑)

日下部素人考えでは、ビールをつけると水虫が治ると思ってしまいそうです。(笑)

下坂ビールは濃度が薄いため、塗っても治りません。
それからキリンビール初のウイスキー事業や、キリンの子会社である小岩井乳業の生産ラインデザインや設計、製品に合わせた無菌ルームも構築しました。
過去に無かったバターやチーズの新商品開発のために、バターを瓶に詰めるシステムや機器を基にQC/QAのシステムを構築したのがきっかけで、当時の厚生省の予防衛生研究所と国立衛生試験所の方々と、WHO(世界保健機関)との共同研究メンバーとして、FDA(アメリカ食品医薬品局)とアブラトキシンというカビ毒の検査を進めて最終的には米国FDAが残存許容量を設定しました。
それからビールの大量生産でネックだった瓶洗浄後の検査を、機械で自動化するシステムを作りました。今ではこれがベースとなり、戦闘機の機関砲の弾丸の検査、医薬品の検査等に発展しています。これらは全てキリンのエンジニアリングがベースになっています。

日下部すごい功績ですね。

下坂それから、日本とアメリカのがん研究共同プロジェクトメンバーとして研究に携わりました。

日下部なぜ下坂さんがそのメンバーに選ばれたのでしょうか?

下坂プロジェクトの中心人物が私を知っていたことと、製薬会社の人間ではないため、利権が絡まないことが良かったようです。
アメリカではナショナルキャンサーインスティテュートという(NCI)、国立のがん研究機関のリーダーの方々と仕事をして、今でもお付き合いをさせてもらっています。

日下部凄すぎて、もはやどこの会社員だか分からないですね(笑)

下坂当時は抗生物質や高血圧などの開発がしのぎを削っている中、どこもやっていない薬で社会に貢献しようと、キリンビールでも医薬品研究を行うことになり、赤血球の造血因子でもあるホルモンのエリスロポエチン製剤をアムジェンという会社と共同研究で開発しました。
エリスロポエチンは腎臓で作られる血液のホルモンですが、腎不全の患者さんはエリスロポエチンが作れないため赤血球の数が通常の半分以下になってしまうため貧血を起こしてしまいます。この製剤が開発される前まで、腎臓透析患者は貧血により、まったく活動ができない状況でした。

日下部透析の患者さんが元気に活動できるのは、この製剤のお陰なんですね。

下坂それから1年後、白血球のホルモンでG-CSF製剤の開発に成功し、次いで12年後には、血小板のホルモンの研究にも成功しました。これもキリンが世界初という功績です。

日下部素晴らしいですね。それで下坂さんは血液やがんに詳しく、その学会などで活躍されているのですね。私もかつては製薬会社の研究所に籍を置いていたので、この功績が群を抜いていることがよくわかります。
実際に開発候補物質に辿り着き、その物質を世に出せるのは、数億分の1という世界です。一生研究しても自分の携わったものが世の中で日の目を見ることがない研究者がほとんどである中、下坂さんはいくつも上市の経験をされているのですね。

下坂そういう意味では幸せですね。実際に患者さんに貢献できているというのは嬉しいです。
エリスロポエチン製剤の開発のときに、アムジェンとキリンの合弁会社を作りましたが、これは私のアイデアなんです。どんなに良いものを研究しても、生産して上市できるところまで持っていけなければ意味がありません。だからこそ提携ではなく合弁会社を作りました。
このときの契約書など、細部の取り決めにも関わらせていただきましたが、現在アメリカのベンチャー企業の中で“最も理想的な契約書”と言われるフォーマットになっています。

アジア細胞治療学会(ACTO)冊子

日下部こういう時はこう考えるべきで、こんな問題も考慮しておく必要があるということが網羅されている契約書ですね。

下坂そうですね。お陰様で弁護士事務所からも講演を依頼されたり、中国衛生部が日本に来てシステムを学び、それを中国に導入するお手伝いもさせてもらっています。
その関係で、90年代初めに中国で最先端の技術や研究を紹介する会議を年に2回当時の衛生部、国家科学技術委員会と共同で開催していました。

日本の医療費問題は患者側にも責任がある

日下部淑美

日下部 淑美(くさかべ よしみ)

BODY INVESTMENT代表
フードエリート / 真実の予防医学食研究家 / 管理栄養士

プロフィール

日下部アジア細胞治療学会というのはどのような学会ですか?

下坂国際細胞治療学会という学会があり、その参加費が日本円にすると約10万円なのですが、この参加費でアジア地域で学会を開催しようとすると、参加できる人が限られてしまいます。
アジアだけ参加費を別にすることも出来ないため、別の学会として立ち上げたのが「アジア細胞治療学会(ACTO)」で、私はそこの理事長になってしまったというわけです。

日下部その学会では、細胞医療に関する世界の最先端の発表などがあるということですが、iPS細胞などにも関わりがあるのですね。

下坂はい。私も東大の医科学研究所にいましたので、山中教授も知っています。

日下部iPSは期待できそうでしょうか?

下坂研究材料としては素晴らしいのですが、直接人に使うのは危険だと考えています。

日下部なるほど。下坂さんは日本赤十字社の輸血の問題にも関わっていましたよね。

下坂日赤は2002年に病原不活性化の導入を検討するとしていながら、未だに一部の導入すらできていません。新しい病原の出現もあり、これまでの検査では対処できてないことは明らかなので、まずは出来ることから病原不活性化を導入すべきです。

日下部その場合、まずは病原不活性化のための医療機器を承認するということが必要になると思いますが、それは進んでいるのでしょうか?

下坂進んでいません。血液が日赤の独占になってしまっていることで、医療機器として承認する必要性が低く見積もられています。

日下部その医療機器を日赤しか使用しないため、販売先も日赤しかないということですね。

下坂海外でも赤十字が血液を扱っているところはありますが、独占ではなく競争原理が働いています。日本は競争原理が働かない上、他からの参入もできないという状況です。

日下部競争がなければクオリティの向上や、サービスの差別化も必要ない。問題は独占ということですね。

下坂まして厚生労働省の日本の血液行政の方針を決める委員会、血液事業部会から日赤に天下りしている。これでは進化しません。

日下部2002年の当時から下坂さんが関わり、動こうとしていた改革が止まっているということですね。もし下坂さんが輸血することになったら心配ですか?

下坂調べていないウイルスなどの心配はありますよね。

日下部HIVは感染してすぐの場合、血液検査をしても陽性反応が出ないため、献血の血液に感染者の血液が混ざる危険性があり、輸血された人にHIVが感染すると記憶していますが。

下坂今でもその状況は変わっていません。表には出ていなくても、輸血による病気の発症というのはありますし、バクテリアの問題も潜んでいます。

日下部怖いですね。下坂さんは最先端の医学界でご活躍をされていますが、日本の医療費問題や患者数の増加についてはどうお考えですか?

下坂患者にも問題があると思います。義務教育期間だけではなく、社会に出てからも有益になる情報をたくさん学んでいけるはずなので、一人一人がもう少し自分のことに気づいてほしいと思います。
今はテストで何点取れるかという教育になってしまい、社会に出てどう活かすかという思考が無い教育現場にも問題がありますが、“なぜ勉強するのか”をもう一度考え直す必要があります。

日下部最近、道徳の授業が無くなるという話もありますが、学生時代の知識はその場限りではなく、自ら考え自ら行動できるように、知識をどう活かすかという知恵を養う必要があるということですね。

下坂行政は“取り締まる”ばかりでNOということが仕事ではなく、我々とともに最先端のより良い治療法を確立していく責任がある“という事を、行政に伝えています。
そのためには、大学などのアカデミーと企業、行政、さらに患者の協力も必要です。今の患者さんには間に合わないかもしれませんが、次の患者さんに間に合うような仕事を一緒にやりましょうと、ACTOを通して提言しています。

日下部それではACTOには最先端の研究者やトップの方だけでなく、患者さんもいらっしゃるのですね。ACTOが日本で市民講座を開催したことはあるのですか?

論文

下坂ありますよ。免疫細胞療法をやっているところがレギュレーションを無視しているという問題があったので、 “誰が悪いとかではなく皆で現状を把握しましょう”という目的で、厚労省、PMDA(医薬品医療機器総合機構)、関連企業に声をかけて開催しました。
その中で「レギュレーションが無いから臨床研究ができない」という意見が上がりましたが、世界中どこを探しても、レギュレーションがサイエンスより先にあるということはあり得えません。アカデミーの側から必要なレギュレーションを提案していくべきです。また企業には“具合の悪い情報を隠すな”と言っています。

日下部今年(2019年)のACTOのスケジュールは決まっているのですか?

下坂11月に札幌で開催予定です。市民も入れる公開講座も用意されていると思います。

経済的理由で研究から退く日本。教育と医療は社会負担にすべき

下坂 皓洋

日下部他に力を入れている取り組みがあれば教えてください。

下坂細胞治療では2009年くらいまで日本でも野放し状態でしたが、患者の安全を守るためには、きちんとした治療制度を確立させなくてはいけません。
アジアには細胞医療に関する薬事制度が確立していない国がまだあるので、制度確立のためのサポートをしています。昨年は台湾で細胞治療の制度を確立することが出来ました。今後はタイ、ベトナム、バングラディッシュで安全性を確保しながら治療ができるようにしていきます。
国として世界水準の治療が出来ず、他国で治療をしなければいけないというのは恥だと思ってもらうために、世界水準の治療を知ってもらうことにも力を入れています。

日下部中国人の一部の方は、健康診断や人間ドックを日本で受診するために来日していますよね。

下坂それは自国での診断を信用していないということです。だからといって他の国に行って受診してはいけないというのでは、何の解決にもなりません。
患者は最先端の治療を求めて、その治療を受けたいと思うのは当然のことです。ただ問題なのはあまりにも怪しげな治療法で、高額な治療費を請求するところがあるということです。
羊の幹細胞でアンチエイジングや、高額な費用で幹細胞移植でダウン症を治すなど、こういう怪しげな治療をきちんとレギュレート出来なければ、患者を危険に曝すだけでなく、細胞医療全体が危険で怪しいものだと思われてしまいます。

日下部確かに大丈夫なのかな?と不安になります。

下坂細胞治療を正式な治療法として、国が認めているものもありますが、基本的に保険は使えず自由診療になります。本来の治療と細胞治療をしているところが別々になり、結果として混合治療になってしまう。国も早く混合治療を認めればいいのです。

日下部国が保険診療と自由診療の混合診療を認めない理由は何なのでしょうか?

下坂理由はありません。既に歯医者の領域では出来ているのですから、本来は先進医療として認めて当然です。「歯医者が出来るのに、なぜ出来ないのですか?」と聞いても誰も答えられない・・・それが日本の現状です。
それから、保険診療の中でも問題なのは、日本の医師であれば誰でも処方が出来てしまうことです。
最近、治療費3000万円を超える白血病のキムリア製剤が承認されましたが、これはきわめて強い薬で、経験豊富な医師が扱わないと非常に危険です。薬剤や治療に関して対象患者の決まり事はありますが、使用できる医師や病院の決め事は何もありません。経験のない病院や医師が取り組むと危険なんです。

日下部このレベルを満たす病院しか扱えませんという決まりが無いということですね。日本の病院は広告が制限されている背景として、 “何処の病院に行っても同じ治療が受けられる”という大原則がありますよね。

下坂その大原則が間違っています。一番の問題は医療行政についてどう考えるのかに繋がり、最後に戻るのは“教育と医療”は社会負担にすべきということに辿り着きます。
将来の日本を担うという意味では、教育と医療は本来社会負担にするべきです。アメリカの教育は産業となってしまっていますが、その真似をして教育を産業にしてはいけません。日本は義務教育はありますが、既に教育が産業になっています。

日下部確かにそうですね。ヨーロッパでは教育費は無料という国が多いですよね。

下坂日本の教育は試験をパスするための教育になっていますが、ドイツは国民が共通で知っておかなければいけないことをしっかり勉強しています。義務教育の先は、自分のために何を学ぶかの選択になります。高校に進んで学ぶのか、職業訓練のための学びを得るのか。
高校に行きたい人は、全員高校に入学できますが、勉強ができない人は“あなたは向いていない”とはっきり言われてしまいます。

日下部入るのは簡単だけど卒業することが難しい。日本は逆ですね。

下坂日本では入ることが目的になってしまい、入学してから何をしていいのか分からないという学生が多い。医学生にもその影響は現れています。
フランスはドイツよりもさらに厳しく、小学1年生でも必要なことが出来ていなければ留年させます。そういう教育が本当の教育なのではないでしょうか。

日下部 淑美

日下部下坂さんとお話していると、医療にとどまらず教育の在り方や行政、外交問題と話しがつきませんね。

下坂今の教育や研究体制では、経済的に生活できないという理由で本当に優秀な人が研究から退いています。先日ノーベル生理学賞をとった大隅良典さんも言っていましたが、研究ができる環境があったからノーベル賞をもらえたわけで、そういうことも考える必要ありますね。

体力維持の秘訣は重たい荷物。生きている間は人の為に働き続ける

日下部下坂さんは75歳で私の母と同じ年齢ですが、かなり重たい荷物を片手に世界中を飛び回っていますよね。その体力を維持できる秘訣はなんでしょうか。

下坂荷物が筋トレ代わりになっているのかもしれません(笑)それから、普段から好き嫌いなく何でも食べますが、変なものは食べませんし、お酒はそこそこ楽しみますが、酔うほどまでは飲まないですね。

日下部下坂さんと知り合って20年近くになりますが、下坂さんは感情の起伏もありませんし、物事に動じることもありません。それも健康の秘訣なのかもしれないですね。
人生100年時代だとすると、まだ25年もありますが、今後やっておきたいことはありますか?

下坂まず頼まれている仕事をしっかり取組みたいです。それから、自分の研究で見つけてきた物質の中に、まだ世の中に役立つものがあるはずなので、それを形にしていきたいですね。

日下部その中で公表できるものはありますか。

下坂血小板ホルモンとNKTという細胞を増やす物質、もう一つはがんの薬になります。

日下部素晴らしいですね。まだまだご活躍を期待しています。

下坂 皓洋・日下部 淑美

日下部淑美からひとこと

決して表舞台には表れてこないところで、国のため国民のため患者のために、人知れず戦っている人がいることを知りました。
そこには日本の医療制度問題にとどまらず、歴史問題から、外交問題、そして教育問題と、たくさんの問題が潜んでおり、できることから確実に取り組み、国に意見しつつも国から必要とされている。日本のみならず海外へも影響を与えている。
そんな方にインタビューをさせて頂けたことを誇りにさえ思いました。自分だったら何ができるのか改めて考える機会にもなりました。

会社データ 関連リンク

アジア細胞治療学会

東京都品川区上大崎2-11-4

TEL: 050-1570-3919 / FAX : 03-6721-7097

代表者:下坂 皓洋

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